私の家では小学生の時に犬を飼っていた。
秋田犬で名前はケン。私の好きな格闘ゲームのキャラクターから取った名前だ。
私が小学6年生の時にケンは10歳を越えており、少し老化症状が出ていた。
親から「ケンはお爺ちゃんだから疲れることはさせてはダメ」と言われたのを覚えている。
私の担当は夕方の散歩だった。いつも決まった公園に行き、ケンとゆっくり散歩した。
ケンには公園の中で好きな箇所が何か所かあり、決まってその場所で立ち止まる。
今でもその公園に行くとケンと散歩したことを思い出す。
ある日の夜、私は親と喧嘩した。
原因は覚えていないが大きな声で怒鳴られたのは覚えている。
私は強く反抗した。乱雑な口調になっていたと思う。
父親が「出ていけ」と言い、私を玄関へ押しやった。
私は「それなら出て行ってやる」と強く言い返した。
出ていく場所なんてないのはわかっていた。
それでもその時は出ていくという選択肢以外なかったように思う。
私は家を飛び出した。
時刻は21時を回っていた。足早に夜の街を歩いた。
当てもなく周囲を歩き続け、気が付けばいつも行く公園に来ていた。
私は疲れ果てて公園のベンチに座った。
時間が経ち、疲労もあったので少し冷静になっていた。
これからどうしようか考えた。
とても不安で心細くなった。
私は公園のベンチで泣いた。
人が公園の前を通るとき、泣いているのがばれない様に服の袖で涙を拭った。
その時、遠くで「ワン!」といつも聞いてる声が聞こえた。
ケンだった。ケンがこっちに向かって走ってきた。
私も自然とケンに向かって走っていた。
とても嬉しかったのを覚えている。
ケンと触れているときは私の中の不安は消えていた。
ケンが「一緒に帰ろう」と言ってくれているように感じた。
家に帰るのは少し抵抗があったが、ケンと一緒なら帰ろうと思った。
家に着いて、親に「ごめんなさい」と謝った。
ケンがいてくれたから素直になれたように思う。
後日談で親から聞いた話。
あの時私が家を飛び出した後、ケンがリードを持って親の所に来たらしい。
ケンが「迎えに行こう」と言っているように思えたとのことだった。
父親がケンと私を探しに向かうと、散歩で行く公園のベンチで座っている私を発見。
するとケンが走り出し、私の元へ一直線で向かったらしい。
父親はリードを離し、あとはケンに任せてみようと考えたようだ。
今はもうケンはいない。
私の貴重な愛犬との思い出だ。