50代の私ですが、小学生の上級生から20代にかけて4匹ほど犬を飼いました。小学生のころは初めて犬を飼うということで、一人っ子の私は犬が友達でした。暇さえあれば散歩に連れて行って、じゃれあっていました。そんな私も中学生、高校生となるにつれ、だんだん友達と遊ぶのが忙しくなり、愛犬と触れ合う時間が少なくなってきました。
そんなこともあり、いちばん思い出に残っているのは小学生のとき飼っていたチェロという雑種です。チェロはとにかく可愛い犬でした。「チェーロチェロチェロチェロ」と、節をつけたように声をかけると、垂れた三角の耳を後ろにやって尻尾を振って大喜びです。耳が思いっきり後ろにいったチェロの顔はほんとに可愛くて、気持ちが通じ合っている感じがしました。50年近く前の田舎のことなので、犬は外で飼うのが当たり前でした。家の中で飼っている人なんて皆無でした。ですので、来客があると声を限りに吠えて、それはそれはうるさいものでした。
ですが、近所から苦情ひとつないのでいい時代だったなあと思います。実際、外で犬を飼っている家は多かったのでお互い様だったのでしょう。外で飼ってたわけですが、父が庭のこちらの木と5メートルほど離れた木との間に太い針金を渡し、それにロープを引っ掛け自由に行き来できるようにしてくれたのです。これで運動不足になることもありません。チェロへの父の愛情を感じたものでした。
犬って賢いなあ、いや、チェロって賢いなあと思った出来事ですが、いくつかあるのですがその中でもこれは、と思ったのが、当時のお風呂は薪をくべるタイプでした。毎日夕方になると、父がいつも小さい丸太を立てて斧で縦に二つに割るという作業をしていました。私はその様子を何気なく見ていたのですが、あるとき、割られて転がった薪をチェロが咥えて、お風呂場の横の薪が重ねられたところに運んだんです。「お父さん、チェロが薪を運んだー!」と私は大喜びです。チェロはいつもお父さんの作業の様子を見ていたんだなあ、と思うのと同時に、チェロはなんて賢いんだ、と感心したものです。この一件があってからますますチェロが可愛くなりました。